脳炎ウイルスがマダニから人へ、あるいは動物へーさらに人に感染!
マダニを介して、人あるいは動物にウイルスが感染し命に関わることがある病気のお話
まとめ ダニに咬まれたレオちゃん ダニに咬まれた私の体験 人のダニ対策 ダニの写真
平成29年12月21日(木曜)宮崎県医師会・宮崎県獣医師会・宮崎県主催の宮崎県感染症危機管理研修会に行ってきました。講師は国立感染症研究所 ウイルス第1部 部長 西條剛之先生です。
この研修に”どうしても行かなければ!”と私が思ったことには理由があります。恥ずかしながら、このウイルスのことを初めて知ったのは、怪我のネコちゃんを当院に連れてきた飼い主さんからでした。
❝ぐったりした野良猫を保護した女性が動物病院に連れて行く途中で咬まれてウイルスの病気になり、不幸にして亡くなった。この子は外で飼っているけど先生大丈夫ですか?私に病気を移しませんか?❞と聞かれ、私はその時、その質問に全く答えることができませんでした。それは昨年、2017年のことです。なぜならば、この日本でペットの動物を介して人がウイルスに感染するという認識はなかったからです。
ペットから人が感染する病気としては宮崎の場合、イヌのレプトスピラ感染症が他県より多いと言われており、その病気を疑う場合はイヌの尿を介して人に感染する可能性があることは、獣医師の間では常識です。ただし、これは細菌感染でありウイルス感染ではないのです。他にはネコひっかき病もありますが、これもウイルスではありません。最近ではコリネバクテリウム・ウルセランスも話題になりましたが、これもウイルスではありません。
それで、大抵の獣医学的な最新情報はVINで分かるため、いつものように、世界の状況や欧米の状況を調べることにしました。すると、マダニとウイルスの研究論文のみ、ほとんど中国から発表されており、少ないながら日本の研究論文も出ていることは分かりました。しかし、実際に動物病院の診療現場での状況とか、そのウイルスに感染した動物のことや、獣医師やペットの飼い主さんがどのように感染しないように気を付けているかなど、実際の状況は全くつかめません。それは、このウイルスが中国と日本など、アジアに特有のため、世界的にはまだ情報が少ないことがわかりました。
それで、実際にこの研修に参加してみると、疑問が解決され、スッキリして研修を終わることができました。
ダニ媒介性脳炎は蚊が媒介する日本脳炎と同じ仲間のウイルス感染症とのことです。それが原因で人や動物がSFTS(重症熱性血小板減少症候群)となったことが昨年報道されたことを記憶されている飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
1993年11月に初めてダニ媒介性脳炎が確認されました。この主治医の先生が柔軟な発想で、蚊がいない寒い時期にもかかわらず、他に原因がわからないこともあり、やはり日本脳炎も考える必要があるとので、日本脳炎の検査をしました。そうすると、日本脳炎と診断して間違いない結果が出たのでした。ただし、他の検査結果も考慮すると日本脳炎に類似な他の病気即ち、ダニ媒介性脳炎の可能性が高いことが分かったのです。
このウイルスを持っているマダニはフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニ。(※画像は国立感染症研究所より許可を得て掲載)
フタトゲチマダニ
タカサゴキララマダニ
このダニに咬まれるとすぐ人は感染するのかというと、そういうわけではないそうです。100回とか200回に1回に感染する可能性。即ち1/100とか1/200の可能性とのことです。従って、できるだけマダニには咬まれない方が良いわけです。マダニに咬まれる回数が多くなれば多くなるほど、このウイルスに感染する確率が増えるということです。もちろん、確率の問題なので、1回目から感染する可能性もないわけではないと私は思いました。人も動物も、マダニにできるだけ咬まれないようにすることが大切なのです。
このウイルスは人から人に感染します。
ただし、ダニ媒介性脳炎のことを知らないお医者さんも多いのではとのことでした。即ち、患者さんがダニ媒介性脳炎であるとの診断に至っていなかった可能性もあるのではとのことです。また、このウイルスは野生動物とダニとの間で感染が維持されている可能性を指摘されました。
このウイルス感染症によるSFTSの治療薬はあるのですが、(T-705ファビピラビル)人の限られた病院でのみ治療ができるとのことです。動物病院での治療は対症療法のみということになります。動物の場合マダニに咬まれないようにする良いお薬が動物病院にはあります。従って予防のためには動物病院でマダニに咬まれないようにちゃんとお薬を処方してもらうことが大切です。私は月に1回のマダニの予防薬をお勧めしています。
ここで、この病気のことを知った飼い主さんが知っていた報道ですが、それはネコに咬まれてSFTSを発症した患者さんのことが昨年2017年6月に公表されたとのことでした。また、2017年6月具合の悪くなった犬がSFTSを発症し、脳炎ウイルスの感染が確認されました。さらに、この飼い主さんも具合が悪くなり、ウイルスに感染しました。ただし、咬まれたわけではなく、病気のワンちゃんを介護していたら移されたようです。
ちなみに、宮崎県の人の抗体保有率(過去にウイルスが体に入ってきて反応した人の割合)は1/1000から2/1000とのことでした。かなり少ないことがわかります。1000人に1人から2人。
ただし、獣医師として、今まで動物を介して人がウイルスに感染するというのは、この日本では考えられないと思っていましたので、かなり驚きました。例えば、今まで獣医師は(少なくとも私は)動物の血液を採血するときに、通常の診療の採血では手袋を着用することはありませんでした。当然大学の教育でも採血するときに必ずゴム手袋を着用するような教育は受けていません。これは、一般的に動物から血液を介して人に感染する微生物は日本では通常考えられないからです。しかし、今からは具合が悪い動物、ぐったりしているネコやイヌの採血をするときはゴム手袋着用が常識となりました。
原因がわからなくて具合が悪いペット、特に意識障害がある動物を介護するときには咬まれないように注意し、唾液など、体液に直接触れない様に手袋をすることが大切です。
だからといって過剰に反応する必要はないのです。元気な動物からウイルスが人に感染することはないとのことだからです。
動物にダニがついている場合は無理に取らないことが大切です。人も動物もです。ダニを掴むとウイルスが体内に注入されるからです。人の場合は、教科書的には病院で皮膚を切開して摘出することがあるようです。動物では良いお薬がありますので、動物病院で獣医師に処方してもらいましょう。当院では3カ月以上をまとめて買うと割り引いています。背中につけるスポットオンタイプと食べさせるお肉タイプがあります。
動物病院にどうしてもいけない場合はワセリンでマダニをこんもり包み込むと、マダニが窒息して自然に落ちます。しかし、マダニが落ちるまでの時間にウイルスの感染の可能性があり、また、動物に感染したマダニを全て見つけるのは不可能に近いと思いますが・・・。
この子はマダニに咬まれているとのことで当動物病院に以前連れてこられたレオちゃんです。パット見た目には分かりませんが、この子の場合、目の周りと耳にマダニがいました。おそらく体にもいるということでお薬を処方しました。マダニは動物の目の周りや耳を好むことがあるようです。
耳をめくってみるとマダニがいました。
目の瞼には小さな幼ダニがいました。
余談ですが、私は北海道の帯広で獣医学科の学生をしていた頃に、よく山に山菜やキノコ採りに一人で出かけていました。ヒグマがいるかもしれないようなところに。ヒグマの仕業と思われる生々しい爪痕が木にあるのを見つけてゾッとしたことがあります。下宿のおばさんが、石を2個持ってカチカチたたきながら山に入ると良いと教えてくれました。(ただ、これはヒグマには良くないとだいぶ後になって知りましたが・・・。)なので、マダニに咬まれたことがあります。山から帰ってお風呂に入った時に自分で見つけました。はじめは ❝あれ、こんなところにイボがあったかな❞という感じでよく見ると自分の体の側面にマダニが頭をすっぽり入れたまま小豆大くらいになってくっついていました。マダニは咬むとき唾液から局所麻酔薬みたいな成分を分泌します。ですので、たとえ、マダニの頭をすっぽり皮膚に入れても人や動物は痛くも痒くもなくわからないのです。何も知らない私は病院に行くという考えすらなかったので、指でつまんで取りました。すると、皮膚の中にマダニの頭が残ったので、何カ月もそのままそこにマダニの頭・異物があったのでした。
質疑応答の時間になり、私はまだ疑問が解決されないことがありました。それで、大勢の医師、獣医師の先生方や、関係者の方々のいる中で、ちょっと恥ずかしかったですが、国立感染症研究所から第一線で活躍する専門の先生がわざわざ宮崎に来ていただいているわけですから、そのとき疑問に思っていたことを全て質問してみました。
私が質問したことは一般の動物を飼っている飼い主さんも注意すべきことなのでそれをお伝えしようと思います。
今までの西條剛之先生のお話で感染経路は体液(血液や唾液など)とのことでした。また、動物から人に感染した例は2例お話の中に出て来ました。それは、一つは人が動物から咬まれたこと、もう一つは具合の悪い動物の介護をしていてその飼い主さんが脳炎ウイルスに感染したとのお話でした。それで、ウイルスは人から人に感染するとのことなので、症例の多い人の場合、人は感染している患者さんから具体的にどのように人が感染したのか質問してみました。そこから、動物から人に感染を防ぐ対策がもっと考えられるのではと思ったからです。
それは、人の場合、患者さんの体液に直接触れて、そのあと、自分の粘膜から感染した報告が結構あるとのことです。他の例では気管挿管(患者さんの気管に麻酔のためなどの目的で気管チューブといわれるチューブを入れること)した医師が患者さんから感染したとのことです。
ここから考えると、気管挿管は患者さんの口を開けてそこにチューブを挿入するわけですし、手に唾液が付着するわけです。患者さんの体液に触れて自分の粘膜から感染したということからも考えると、体液に触れた自分の手で目や口を触ると感染するということになります。
なので、人が動物からの感染を防ぐには、具合の悪い動物を看病するときはゴム手袋をしてその手で自分の目や口を触らないことが大切です。後は意識障害のある動物、具合の悪い動物を触ったら良く手を洗うことも大切だと思いました。
動物病院では、マダニの感染が多い時期になると動物にマダニを付けたまま動物病院に来られる飼い主さんを見かけます。そうすると、診察台にマダニが落ちて、マダニがノソノソ診察台の上で動いていることは今まで何度もありました。ですので、人がマダニを触ることでウイルスに感染するリスクはあるのかどうか質問しました。
その質問に西條剛之先生はそんなことはないとのことでした。今まで通りに動物を飼っていて大丈夫とのことでした。ただ、研修の後で思ったことですが、飼い主さんの中には動物についたマダニを取ったあと、ぶちゅっとつぶす方がいらっしゃいます。これを私が目撃すると、潰すのはおやめになった方が良いのではとお話します。これは欧米にはマダニから感染するライム病という病気があって(日本では長野県や北海道での人の感染例あり)この原因となる微生物は細菌ですが、動物についたマダニを潰すのは良くないと言っていたドクターがいたのを覚えているからです。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)の原因となる人や動物に感染する脳炎ウイルスを保有しているダニはフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニ。
この脳炎ウイルスはマダニに咬まれることで人や動物が感染する。マダニに咬まれて感染する確率は1/200から1/100程度。なので、人も動物もマダニに咬まれない対策が大切。
脳炎ウイルスに感染した人から人への感染、感染した動物から人へ感染することがある。
脳炎ウイルスに感染した動物から人に感染が起こる場合は、原因がわからない具合の悪い、意識障害のあるイヌやネコで、元気な、健康的なイヌやネコから人に感染することはない。
感染経路は血液や唾液などの体液。それを触った手で自分の粘膜から感染する。従って、具合の悪い動物を介護する場合は手袋を着用し、その手で特に顔など自分の体を触らない。また、動物に咬まれないようにする。
※動物に咬まれないために
私の経験から言えば、ネコに咬まれないようにするには適切な大きさのエリザベスカラーを装着することが大切です。絶対に咬まれないということは言えないかもしれませんが、適切なしっかりしたエリザベスカラーであれば、まず、咬まれないと思います。ネコの場合マスクがありますが、本気で怒るとマスクごと人を咬みます。(私はそのマスクをした子に咬まれたことがあります。)
イヌの場合は口輪がありますが、口輪をしたままイヌが嘔吐をした場合、気管に吐物が入ると命にかかわります。ですので他の選択としては絶対大丈夫とは言えないかもしれませんが、適切な大きさのしっかりしたエリザベスカラーを装着する方法があります。あとは、バスケット型の口輪を使用すると、少しは嘔吐した時のリスクを少なくすることができるのではと思います。
ワンちゃんとのお散歩で飼い主さんもマダニに感染しないように良い資料がありましたので紹介します。(※「マダニ対策、今できること」は国立感染症研究所より許可を得て掲載)
※参考資料
フタトゲチマダニ及びタカサゴキララマダニの画像
国立感染症研究所より許可を得て使用
http://www.niid.go.jp/niid/ja/from-lab/478-ent/3467-longicornis.html
http://www.niid.go.jp/niid/ja/from-lab/478-ent/3739-vectors.html
(2018年4月5日アクセス)
「マダニ対策、今できること」
国立感染症研究所より許可を得て使用
http://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/2287-ent/3964-madanitaisaku.html
(2018年4月5日アクセス)
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